夫には7秒間の記憶しかない イギリス元指揮者の夫と妻の20年:Med草子

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夫には7秒間の記憶しかない イギリス元指揮者の夫と妻の20年

15 December 2007 NHK BS海外ドキュメンタリーより

 

イギリス。指揮者だった夫が、突然、脳、特に海馬を感染したウイルスに侵され、重篤な記憶障害に陥りました。 

 発病して9年間、彼は日常生活のことをすぐ忘れていくことに恐怖を感じ、常に大きな日記を持ち歩いていました。そこに、「何時何分、私は目覚めた」、「何時何分、私は本当に目覚めた!」、「何時何分、私はようやく本当に目覚た!!」など、延々と時間と、その時自分のしたことを書きつけていたのです。

  その間、夫婦2人の会話はずっと同じでした。妻が何を話しても、夫は「わからない、覚えていない」と答えるしかなかったのです。

  彼女は耐えられなくなり、24時間の看護をしてくれる施設を彼のために探し、そして離婚しました。

  「クライブ(夫)は自分のことを妻だとは分かるが、結婚式の事は覚えていない。記憶が無ければ結婚していないのと同じです」と彼女は当時の心境を語りました。

  そして彼女はアメリカに渡り、新しいパートナーを探しましたが、うまくいきませんでした。

 「夫の姿をどこかに求めていたからかもしれません」

  彼女は永住権をとらずに、イギリスに帰国しました。

  そして脳機能障害の施設にいる夫と再婚して、共に生きる事を選択しました。

  しかし、不安はありました。

 ある日、彼女はクリスチャンの友人に、祈ってくれるよう頼みました。その祈りを聞いていると、すさまじいパワーが自分に流れてくるのを感じたと彼女は言います。

 「神の存在を感じました。それまで、恋愛などで埋めようとしていた事が、自分がパワーに満ちると同時に、すべて解決されていることに気付きました」

  ある日彼女は、夫が発病前にラッソ(16世紀後期ルネサンスの作曲家)のレクイエムを指揮した教会に、夫を連れて行きました。

  「あの時音楽はそれを超越し、それ自体がミサのようだった。みんなが感動して、素晴らしい体験をしたのよ。コンサートの様子は5ヶ国に中継されて、見た人の人生に大きな影響を与えたのよ。あなたは最高だった。今も最高よ」 

 彼は「信じられないな」と言いながら、感動して涙をこらえていました。その後2人はしばらく教会の椅子に座っていました。彼は彼女の肩に顎を乗せ、頭を預けていました。

  「彼は重度の記憶障害を持ちながらも、今とても穏やかで彼らしい生活を送っています」と彼女は言います。

  彼は時折楽譜を取り出しては、部屋に備え付けてあるピアノに向かいます。指揮者はスコアという、各楽器のパートをすべて縦に並べて記載した楽譜を用いますが、その訓練の段階で、パートごとに初見で、ピアノで編曲して演奏するという技術を必要とされるそうです。

  彼の中の長期記憶はある程度残っており、海馬以外の脳の機能は非常に高い活動レベルを保っています。

  でも彼は、短期記憶が必要とされる日常生活において、7秒ごとに記憶をなくし、自分はどこに居るのか、何をしていたのかすら分からなくなる、という症状と戦い続けています。それは彼の自尊心を大きく傷付け、最初の離婚のきっかけにもなりました。 

 しかし、彼の功績は消えることはありません。そして、彼を愛する人にとって、彼の大切さは変わらないということに気付いた妻の支えで、彼は落ち着きを取り戻していきました。

 (辛いですか、というスタッフの問いかけに)

「昼も夜も無い。感覚が無い。夢も見ない。それは死に等しいのと同じ。でも辛くない。死んでしまえばなにも感じなくなるだろう?それと同じだ」 

(何をしたいですか?)

「ジン・トニックとタバコかな。そして、残された記憶の中でデボラ(妻)を待ち続けること」

 

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投稿者: bless 日時: 2008年02月05日 01:43 | TOPページへ   ▲画面上へ

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